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単孔式胸腔鏡手術(uniport VATS)とロボット支援胸腔鏡手術(RATS)について
以前は20-30㎝の側胸部切開による開胸術が一般でしたが、1990年代以後胸腔鏡手術が導入され、3ポートによる胸腔鏡手術により疼痛を大きく軽減することが可能となりました。しかし、それでも我々が現在行っている前向き観察研究では10-20%の患者さんは3か月後に慢性疼痛を自覚されています。
呼吸器外科領域の低侵襲手術は現在新しい時代に入っています。上記の3ポート胸腔鏡手術から単一の創のみで手術を行う単孔式胸腔鏡手術がアジアを中心に広がりを見せています。一方、ロボット支援胸腔鏡手術も北米を中心として広がり、2018年4月から本邦でも保険適応となりました。そのいずれも当科では行っています。
A.単孔式胸腔鏡手術(uniport VATS)
当院における単孔式胸腔鏡手術は2018年2月から縦隔腫瘍に対する剣状突起下アプローチによる単孔式手術に始まりました。これは肋間神経を損傷することのない剣状突起下(みぞおちのあたり)から、基本的には1つのポートを用いて縦隔腫瘍を切除する方法で、術後3日目にはほとんど疼痛が無くなり、多くの患者さんが鎮痛薬不要で退院されています。適応は限られますが非常に優れたアプローチです。
そして2018年12月から肺癌、転移性肺腫瘍に対して一つの創からアプローチする単孔式胸腔鏡下肺葉切除および区域切除を導入しています。従来のアプローチと比較し術後疼痛が少なく、早期退院が可能となっています。2021年11月には100人の患者さんに手術を無事に施行することができました。一つの創からのアプローチは安全性に懸念がありましたが、当院独自の工夫により、手術に関連する死亡ゼロ、出血などのトラブルによる開胸移行や多孔式胸腔鏡手術への移行ゼロ、赤血球輸血ゼロと安全な手術を提供することができております。また術後も肺瘻(肺からの空気の漏れ)の停止までの日数は平均で0.47日、中央値0日(0-9日)で、非常に良好な安全性が証明できています。
全国的にも早期に導入したことによって、当院にはすでに安全に行うためのノウハウの蓄積が進んでおり、標準的な手術であれば問題なく単孔式でも安全な手術を行えるようになっております。(図8)

B.ロボット支援胸腔鏡手術(RATS)
一方、ロボット支援胸腔鏡手術も肺悪性腫瘍(肺癌、転移性肺腫瘍)、縦隔腫瘍に対して保険収載されたのに伴い、当院では2019年2月より開始しています。当初はダビンチSという旧タイプでしたが、2020年1月より最新型機種であるダビンチXiで手術を行っています。ロボット手術は“掃除ロボットのような自動運転手術ではなく、ドローン操作のように”資格を有する術者が行います。当科では4名のメンバーのうち、3名がロボット支援手術の執刀を出来る資格を有しており、また4名全員が助手としてロボットの操作を行う資格を有し、麻酔科医、看護師、臨床工学技士とも緊密な連携をとり万全に手術を行うことが出来る体制を整えています。また当院のダビンチXiは肺葉切除モデルを含め多数のプログラムを有するシミュレーターを併設しており術者の日々のトレーニングや修練医の教育に使用しています。
ロボット支援手術も低侵襲胸腔鏡手術ですが、単孔式と趣は異なります。手術創は1-3cm程度の創が3-5ヶ所で、同部から挿入した内視鏡、ロボットアームを用い、高精細強拡大可能な3D画像を使用し、膜、神経、小血管といった微細構造を確認しつつ(図9)、利き腕には無関係に人間の可動域を超えた関節を利用することで繊細な操作が可能で、低侵襲、安全性、根治性を両立させた手術を行うことが出来ます(図10)。当科では肺癌、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍に対してRATS手術を行っており、術後合併症は軽微で、良好な術後成績です。縦隔腫瘍に対してはその特性を生かすことができ有効な手術となっています。また肺悪性腫瘍に対しても従来の胸腔鏡を大きく凌駕する視野の充実性により、極めて良い視野で安全に低侵襲に手術が行うことができます。
単孔式とロボット手術は重複する術式が多いため、使い分けは慎重に判断していますが、縦隔腫瘍の場合であれば比較的単純な縦隔腫瘍は単孔式胸腔鏡で、やや複雑な縦隔腫瘍の場合にはロボット手術というように両者を使い分けています。肺癌に関しては病巣部位や想定される術式、難易度により使い分けています。
我々はより良い手術を提供するため、臨床研究を踏まえ年々新しい取り組みを行うことで、改良、改善を積み重ねています。御興味のある方は外来担当医に遠慮なくお尋ねください。

