縁の下の力もちとしての眼科診療を支える「視能訓練士」
にしこうべ vol.23
2021年03月

“縁の下の力もち”としての眼科診療を支える「視能訓練士」
《精度の高い眼科検査に欠かせない専門職》

視能訓練士は、小児の弱視の視能矯正や視機能の検査を行う国家資格を持つ専門技術職として日本では 1971 年に誕生しました。その後、1993 年に視能訓練士法が改正され、医師の指示の元に視機能検査や視機能訓練を行えることとなりました。神戸市立西神戸医療センターでは、地域の中核かつ急性期病院として地域の医療機関の先生方から選別された手術対象疾患の方、急性期治療や当院での検査を必要とする疾患の方々を対象とした視機能検査を主とした検査業務を行っています。
眼科医師の良きパートナーであり、患者さんやご家族にとって身近で頼りになる医療専門職である6名の視能訓練士の皆さんにお話しを伺いました。

(お話は、眼科の佐久間 真里主査、笹田 多恵子主任、永松 明子さん、田中 育可さん、大垣内 彩華さん、赤羽 加奈子さん)

このたびは眼科、とりわけ“視能訓練士”に対してスポットライトをあてていただき感謝致します。
視能訓練士は眼科医師の良きパートナーであり、視能訓練士の存在なくしては当院の良質な眼科の医療は成り立ちません。今回のインタビューではあえて医師は登場せず、視能訓練士たちの生の声を聴いていただけると幸いです。

眼科部長 三河章子 医師

地域のクリニックと連携して目の健康を守る

Q:現在、正規職員として6名の視能訓練士さんがおられますが、役割分担はありますか?

佐久間:眼科の検査機器、手術の発展とともに視能訓練士が請け負う検査の種類が増え、検査件数が増加しています。それに伴い、視能訓練士の人数も徐々に増やしていただき、現在常勤として6名がいます。キャリアは各々異なり、当院では検査以外はキャリアに応じて細かな役割分担があります。しかしながら、基本的な検査業務に関してはキャリアの長さとは関係なく、全員が医療専門職として責任を持ち「すべての検査員が主たる検査に対応出来る」体制にしています。これは、急性期病院として救急患者を受け入れる上で必要なことだと考えています。

笹田:まず、紹介患者さんが来院されると看護師の問診の後、医師より指示された検査をしています。遠方から来られる方や、お仕事で頻繁の来院が難しい方もおられますし、医師が治療方針を早期に立てることで患者さんに安心していただけるように、時間がかかっても可能な限り当日のうちに実施し、速やかに医師の診察や手術に繋げています。当日に急ぎの追加検査が入ることは珍しくありませんので、臨機応変な対応力が問われます。また、ADL(日常生活動作)が低い方やご高齢な方も多いので、検査にかかる時間はさまざまです。

大垣内:それは具体的には、看護師とも協力して視力や視野障害で見えにくい方の歩行介助や、車椅子をお使いの患者さんのために動線を確保し、ご高齢の方が移動中に転倒しないようサポートしたり、特に身体の不自由な方の検査を行う場合には、検査の椅子やベッドへの移動時に気を配り、検査台に顎を乗せるときに背後から支えたり、瞼を上げたりといった患者さんが検査に臨みやすいようにお手伝いをするケースもあります。

赤羽:わたしたちは、主に視力検査などを行う明室、眼底カメラや網膜光干渉断層計を代表とする眼底画像解析検査機器などを設置した暗室、さらに視野検査や網膜電位図などを行う暗室の3カ所に分かれて検査をしています。そこで、チームワークを発揮しながら助け合っています。また、検査の内容や目的、手順などをご説明する時に、できるだけ専門用語を使わないようかみ砕いてお伝えしています。白内障手術説明会も視能訓練士が担当しており、目の断面図などの資料を用いて、患者さんにわかりやすく伝わるように工夫しています。

田中:急性期病院の役割として当日の救急患者も多数受け入れて、それらの検査対応に追われていますが、それとは別に時間のかかる検査は眼鏡外来、ロービジョン外来(視覚に障害がある方に対して視覚補助具の選定や紹介を実施)、斜視弱視外来で対応しています。それでも圧倒的に多いのは手術対象疾患に対しての検査ですね。

めざましい進歩を遂げている眼科の検査技術

Q:西神戸医療センターは地域の中核病院ですので、病院ならではといった視能訓練士さんのお仕事内容はどのようなものでしょうか?

佐久間:そうですね、当院では地域の先生方からご紹介された重症な方や手術適応の方を対象とした急性期医療を提供しています。そのため、患者さん一人あたりの必要とされる検査数が多かったり、造影検査などの難しい検査が必要となったりします。

田中:手術の申し込み時や、病状が重い患者さんは検査数が多いのですが、さきほども申し上げましたが何度もご来院いただくのは大変な方も多いのと、治療方針を早期に決めて治療に結びつけるために、可能な限り当日のうちに検査を行うことを目標にしています。一人あたり、多い方だと一日に十数個の検査を受けていただくことがあります。そのため時間がかかり、長時間お待たせすることもありますが、患者さんの負担を軽減できるように努めています。

永松:総合病院ですから、たとえば内科から糖尿病の患者さん、形成外科から眼球打撲の患者さん、脳神経外科や脳神経内科からの患者さん、薬の副作用で眼症状が出た場合など他の全身疾患に関与した院内紹介患者さんもおられ、それらに付随した検査も請け負っています。院内連携はとても重要で、眼科の検査結果で治療方針が決まることもあり、責任感を持って検査に臨んでいます。

Q:中核病院として最新医療機器も導入されたと伺いました。代表的な機器を教えてください。

佐久間:以前から、白内障の術前検査で前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)をレンズ選択の面でも活用させていただいていますが、加えて当院では“白内障手術イメージガイドシステム”を導入しています。眼内レンズは一般的な単焦点レンズだけでなく、いわゆる付加価値レンズといわれる低加入分節型眼内レンズや多焦点眼内レンズ(遠くが見えるだけでなく、中間や近くを見るために追加で度数が付加されているレンズ)、乱視矯正用のトーリック眼内レンズ(乱視用)があります。その中でも、乱視用の眼内レンズの適応がある場合は、“白内障手術イメージガイドシステム”での術前検査が役立ちます。術前に患者さんの角膜の形状を精密に測定し、指紋認証みたいに虹彩や強膜の血管といった目の特徴を認証して、各々の目に応じた乱視軸や眼内レンズの度数を計算します。術前に得られた検査結果は手術室の顕微鏡に送られて、医師は術中にデジタルマーカーに従って手術を行います。これでより精度高く乱視の軽減が図られますので、術後の見え方を喜ばれる患者さんが多く、わたしたちも嬉しく思います。

赤羽:多くの病院でもそうですが、当院の手術対象疾患の中でも最も症例件数が多いのは白内障です。白内障術後の視機能の改善は患者さんの期待度も高く、また、近年は眼内レンズの種類も複数あり、術前検査がいかに精度高く出来るかが重要なポイントの一つになります。

田中:それから、当院で昨年度に導入された眼底カメラとしての“共焦点走査型ダイオードレーザー検眼鏡”があります。これは眼底検査用の微弱なレーザ光(SLO)を用いて眼底の撮影を行う装置になります。赤・緑・青の3色のレーザ光を使って撮影することにより、1670 万画素(4096×4096 ピクセル)のカラーSLO撮影をおこなえます。また、従来の散瞳カメラでは50度の画角でしたが、この機種は60度の画角です。さらにオプションの広角アダプタを取り付けることにより110度の超広角まで撮影範囲を拡げることができ、今までの眼底カメラより広い範囲の高解像度な眼底写真を撮影できるようになりました。

大垣内:2020年に最新の医療機器となる“共焦点走査型ダイオードレーザー検眼鏡”が導入され、その性能の高さに驚きました。わかりやすく言うと「一眼レフカメラみたいな綺麗な画像」が撮れるというイメージでしょうか。

永松:当院の“共焦点走査型ダイオードレーザー検眼鏡”は、通常の眼底カメラとしてのカラー画像だけでなく、網膜光干渉断層計、眼底自発蛍光、蛍光眼底造影の撮影が出来ます。医師は診察時に画像を提示して説明ができるので、患者さんに病態を理解していただきやすいといったメリットがあります。特に、2種類の造影剤を用いた蛍光眼底造影検査は中核病院ならではの検査になると思います。

田中:他にも“多局所網膜電図”という検査があって、患者さんにはわかりやすく「網膜の心電図」と説明しています。網膜のいろいろな部分に光を当てた反応を別々に細かく調べています。頻繁に行われる検査ではありませんが、眼底にほとんど異常所見がないにも関わらず視力低下や視野異常をきたす疾患の診断に有効であり、原因不明の疾患の早期診断に有用となっています。

視力を守るための「眼科救急」をサポート

Q:救急対応において、手術疾患はどのようなものが多く、その中で視能訓練士の方が果たす役割はどのようなことですか?

笹田:そうですね、一般的にイメージされやすいのは救急車で救急搬送される患者さんかもしれませんが、眼科は他科のように生命に関わる診療科ではないので、救急車で救急搬送される方はほとんどありません。実際には眼科の救急の多くが、地域医療室経由で地域の医療機関で選別された至急、緊急疾患の患者さんです。眼科で至急、緊急疾患は疾患頻度から網膜剥離や網膜裂孔、様々な疾患からの硝子体出血、眼内レンズ脱臼、角膜潰瘍、重症なぶどう膜炎、視神経炎、急性緑内障発作、外傷などです。病状によっては失明を含めて高度な視機能障害を残す可能性の高い重症な疾患ですが、眼科なので多くの皆様はご自身で来院されます。緊急入院や緊急手術となることも多いです。通常の診療予約の患者さんの検査に対応しながら平行して更に迅速な検査を要求されるので大変ですが、みんなで協力してスムーズに対応できるよう努めています。

永松:網膜剥離や急性緑内障発作などの至急、緊急入院手術の疾患が来られた時は、視能訓練士だけでなく、看護師やクラークといった他の眼科スタッフとも連携し対応しています。自分たちは迅速かつ正確な検査を通して、縁の下から患者さんの急性期の治療に貢献させていただいていると思います。

知識と技術を常にアップデートし、患者さんに信頼される存在に

Q:今後の課題や目標をお聞かせください。

笹田:私たちは医師の指示を受けなければ検査を施行することはできませんが、その結果が患者さんの治療にダイレクトに反映されることに責任を持ち、より迅速かつ正確にデータが出せるよう努めています。それが医療専門職としてのやり甲斐にもつながっています。「よく見えるようになった」「明るくなった」などの患者さんからの言葉を聞くと私たちも嬉しく感じています。これからも患者さんの笑顔に繋がる医療を提供していきます。

佐久間:引き続き、すべての患者さんに迅速に治療や手術に繋がる医療を継続して提供し、地域医療に貢献できるよう環境作りに取り組んでいきます。また、後輩育成にも取り組むなど体制を整備していきたいと思います。近年、眼科医療はめまぐるしく進歩しておりますが、私たち視能訓練士全員はそれらに対応できるよう、知識や検査技術を常にアップデートしながら、これからも眼科診療を全力でサポートしていきたいと思っています。

 

―ありがとうございました。

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