にしこうべ vol.22 2020年03月
多職種連携でシームレスな医療サービスの提供を目指す「地域医療室」
患者さんの視点でサポートを
人生100年時代を迎え、高齢になっても住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを最期まで続けることができる社会を目指して、医療・介護・予防・住まい・生活支援の5つのサービスを一体的に提供できるケア体制を構築しようと、「地域包括ケアシステム」の整備が進められています。超高齢化社会を支えるには、患者さんの家族や地域の医療機関、介護・福祉の人材が連携し合い、状況に応じた医療や介護を行う必要があります。
西神戸医療センターでは、開院前から神戸西地域(西区・垂水区・須磨区)における医療連携を推進してきました。そして昨年、新たな取り組みをスタートさせた地域医療室の皆さんにお話を伺いました。
(お話は、地域医療課の田村千枝課長、地域連携係の井立美穂係長、医療福祉相談係の友次佳代係長、入院前支援センターの児玉享子師長)
お住まいの近くの医療機関「かかりつけ医」をカンタン検索!
「かかりつけ医」の推進について、どのような取り組みを行っていますか?
田村:お住まいの近くの医療機関や診療所の中で、ご自分に合った「かかりつけ医」を決めておいて、軽い風邪や腹痛、慢性疾患などの日常的な治療は、かかりつけ医を受診していただき、急性期医療や高度医療が必要になったときは、かかりつけ医から紹介を受けて当院を受診していただくのが理想なのですが…。
井立:当院の利便性が良いこともあって、患者さんの中には「西神戸医療センターが、かかりつけです」という方がおられる状況です(笑)。
友次:有難いことではありますが、皆さんがいきなり急性期病院に来られると、当院の専門性や機能を本当に必要としている急患や重症患者さんの治療に活かせなくなってしまいます。
井立:そこで、まずはお住まいの地域や職場の近くにどういった医療機関があるのか知っていただくことが大切だと考え、令和元年10月、医療機関検索システムを導入しました。
当院では、患者さんがお住まいの地域で安心して継続した医療が受けられるように、当院と連携・協力してくださる医療機関を「連携登録医」として登録する制度を設けています。登録された医療機関のデータを患者さんが自由に検索できるように、2階中央待合ホールの薬局受付の近くに端末を設置しました。このほか、当院のホームページでも、「地域医療連携」ページ内の「登録医一覧」からお調べいただけます。
今後は、どのようにして患者さんに検索システムを活用していただくかが課題です。また、登録していただける医療機関をさらに増やしていきたいと思います。
田村:私は、地域の医療機関とは、顔の見える連携が大切だと考えています。患者さんの紹介時に手紙(診療記録)のやり取りだけで済ませるのではなく、ときには地域医療室長と一緒に訪問して意見交換を行うこともあります。ご意見を伺って、改善できるところは改善するように努めています。
児玉:顔の見える連携と言えば、年3回、地域医療室の主催で合同カンファレンスを行っています。地域の医療機関や訪問看護ステーションから看護職だけでなく、薬剤師やソーシャルワーカーなど多職種の方に来ていただき、事例報告や検討を行います。普段、電話でやり取りしている方とも、直接顔を合わせて話すことで、その後の仕事がスムーズにいく効果も生まれています。
井立:合同カンファレンスのほかにも、地域の医療機関の方々を対象に、当院の各所属診療科・部門が主催するオープンカンファレンスを年に80~90回実施しています。
「治す医療」から「治し、支える医療」へ
患者さんの入退院支援、がんに関する相談支援にも力を入れているそうですね。
児玉:私は入院前支援の担当です。入院予定の患者さんと面談して、納得された上で入院し、治療を受け、安全に入院生活を過ごしていただき、退院時には不安なくご帰宅していただくことを第一に考えています。もし、治療方針を理解しておられなかったり、不安を感じておられたりする場合は、主治医から再度説明してもらうことがあります。その結果、患者さんの意向に合わせて治療方針が変わったり、まれに入院をキャンセルされたりするケースもありますが、それぞれのメリット、デメリットをご説明した上で選択肢を提供しています。
また、患者さんの家族構成や普段どのような環境で生活しておられるかなど、情報収集を行い、入院中に何が問題になるかを予測して病棟に情報を伝えます。たとえば、転倒のリスクがあるときはその対策を施す必要が、ご家族が十分な支援をできない場合は、在宅支援を整える必要があります。地域医療課の中に退院支援部門もあるので、そちらとも連携して患者さんをサポートしています。
患者さんもご家族も、退院するときには元気になっていると思っておられますが、必ずしもそうではありません。高齢の方が2週間入院すると、病気は良くなってもご自分の足で歩けなくなってしまう可能性があります。入院前に、退院時にどういう状態になっているかを予測して、何を準備すべきか具体的にお話することでイメージができ、納得して治療を受けていただけます。
田村:近年、入院しなくても抗がん剤治療などが受けられるようになり、退院後も外来での治療が続く方が増えています。多職種で関わり、次々とバトンを渡しながら、入院前、入院中、退院後と、シームレスに循環するような支援を行っていけたらいいいですね。
友次:地域医療室には、「がん相談支援センター」という部門があります。研修を受けた看護師とソーシャルワーカーで担当しています。がんの告知を受けて説明を聞いたけれど、混乱していてどうしたらいいかわからないので情報の整理をしたい、どういう治療法があるのか知りたい、医療費が心配、公的なサービスで利用できる制度はあるのかなど、何でもお気軽に相談に来てください。相談料は無料です。当院を受診していない方でも、患者さんでもご家族でも、予約なしでも、がんに関するご相談を広く受け入れています。
今や日本人の2人に1人ががんにかかる時代ですが、社会はまだ、がんを抱えながら働くことに寛容とは言い難い状況です。がんと診断され、治療と仕事を両立させるために会社とどのような話し合いをすればいいのか、労働問題や社会保険を専門とする社会保険労務士による相談会も10月から始めました。こちらは月1回の完全予約制です。
児玉:医師はどうしても病気や治療に目が行きがちですが、患者さんは病気が良くなっても生活が成り立たなければ意味がありません。患者さんの視点でサポートしていくのが私たちの役割だと思います。
井立:昔の医療は治すことが目的でしたが、治して、支える医療が求められるようになってきました。当院の役割が十分に果たせるよう、きちんと交通整理をして地域包括ケアシステムをうまく回していきたいですね。
患者さんやご家族の気持ちに寄り添い、希望を叶えたい
地域包括ケアシステムの成功事例はありますか?
友次:7月のオープンカンファレンスでご報告したのですが、50代の娘さんを80代のお母さんがご自宅で看取った事例が参考になると思います。介護者のお母さんがご高齢で、私たちは在宅介護や在宅看取りは難しいだろうと思って、ホスピスをご紹介する方向で話が進んでいたんです。患者さんの意識がもうろうとしてハッキリ意思表示できなくなったときに、訪問看護師さんから、「最期は自宅で過ごしたいとご本人が希望していたので、家に帰してあげて欲しい」と連絡をいただき、わずかな時間でしたがお母さんと家で過ごすことができました。あのタイミングを逸することなく、ご本人の希望がかなえられて本当に良かったと思います。普段から患者さんと密に関わっておられる訪問看護師さん、ケアマネージャーさん、往診の先生の存在があったからこそ実現できた在宅看取りだったと思い、事例報告させてもらいました。ご本人の希望をかなえるために多職種が一生懸命考え、連携できた。これぞ地域包括システムの構築というケースでした。
田村:患者さんのことを思って、この先どうしたいかをわかって次へつなげていけるのは、私たちにとってやりがいになっています。患者さんの希望をかなえられるのは看護の真髄だなと思います。
今後の課題や目標をお聞かせください。
田村:課長として、それぞれの係が患者さんのためにやりたいことが叶うような環境を作ったり、意見を言いやすい風通しの良い環境を作ったりしていくのが、私の役割だと思っています。また、今後も地域の医療機関の先生方・医療介護関係の方たちと顔の見える関係を築いていきたいと思います。
友次:ソーシャルワーカーとして、自分たちができることがまだまだあるのではないかと思っています。外来患者さんの支援や合併症のある妊婦さんへの対応、育児支援、後輩の育成などに取り組んでいきたいです。当院で働きたいと思ってくれるソーシャルワーカーが増えるとうれしいですね。
児玉:入院前支援の部署は4年めで、まだまだ院内でも何をしているところか知られていないと感じています。各部門が患者さんの意向をわかって、同じ方向を見て動いていけるようになりたいですし、ここに相談すれば、患者さんの支援がトータルでできるような部署になればいいなと思っています。
井立:地域連携係として、地域の医療機関から患者さんをご紹介いただき、必要な治療が終わったら、また地域に戻っていただくという流れを円滑に進めることが最重要課題だと思っています。そのために必要な整備に取り組んでいきたいです。
ありがとうございました。