心理士としてつらい気持ちに寄り添い、安心してもらえる存在に
臨床心理士とは、臨床心理学にもとづく知識や技術を活かし、人の心の問題にアプローチする心の専門家です。医療、教育、産業、福祉、司法など、さまざまな領域で活躍しています。
そのうち、病院や診療所などの医療分野で活躍する臨床心理士は、心の問題で不適応に陥っている方や病気や怪我などをしている方が、少しでもしんどさが和らいで、その方なりの幸せに繋がるような心理的援助を行っています。また、近年は心の健康に対する関心が高まってきており、2017年には日本初の心理に関する国家資格として公認心理師が誕生しました。
そこで今回は、西神戸医療センターで活躍する3名の心理士の皆さんに、心理士の業務や多職種との連携、心理士として働くやりがいについてお話を伺いました。
幅広いニーズに対応する西神戸医療センターの心理士
まずは、西神戸医療センターで働く心理士について教えてください。
川添:当院には現在、常勤2名、非常勤3名、合計5名の心理士が在籍していて、一日あたり心理士3名体制で勤務しています。
心理士の全員が、国家資格の公認心理師と日本臨床心理士資格認定協会認定の臨床心理士の両方を取得しています。精神神経科とリハビリテーション技術部を兼務しており、他科多職種と連携して、患者さんの病状や一人ひとりの個性、その人を取り巻く状況やライフステージに合わせた心理的サポートを行っています。
心理士として、主にどのような業務を行なっているのでしょうか。
白川:心理士の業務は、外来での業務と病棟での業務に大きく分かれ、割合としては半々くらいです。
外来においては、主治医からの依頼で心理検査を実施し、結果を整理・分析して報告書を作成します。必要な場合には、学校などの関係機関に提出する書類を作成します。また、主治医から継続的な心理面接の依頼があった場合は、患者さんの年齢や状況に応じてカウンセリングなどを実施します。
西神戸医療センターには精神神経科の病棟がありませんので、病棟での業務は各病棟から精神科リエゾンチームへの依頼があった患者さんを中心に、心理面接や心理検査を実施し、心理的な支援を行っています。
川添:心理検査やカウンセリングなど時間枠は設定されていますが、その中で患者さんお一人お一人の心に寄り添い、丁寧にお話を伺うことを大切にしています。
また、私たち心理士は、直接患者さんと接して支援するだけではなく、医療チームの一員として他の医療スタッフらとのカンファレンスなどで患者さんの状態を共有し、間接的なサポートを行うこともあります。
精神科リエゾンチームや緩和ケアチームや高齢者・認知症サポートチーム、糖尿病療養指導支援チームなどの多職種チーム活動にも積極的に参加しています。
白川:心理士のリハビリテーション技術部での業務としては、乳幼児から成人までを対象とした発達検査や知能検査、高齢者の認知機能検査なども担当しています。
最近では、小児科から依頼を受けて小児特定疾患カウンセリングを実施するなど、他科との連携も年々増えてきています。さらに、オープンカンファレンスの運営や、心理士を目指す実習生の受け入れなども当院における心理士の役割です。
西神戸医療センターは総合病院として地域で重要な役割を果たしていますが、そこで働く心理士の特徴はありますか。
川添:公的病院で働く心理士として、年齢や疾患など、地域の皆さまの幅広いニーズにお応えできるようにすることが求められているのではないかと思います。当院は認知症神戸モデルにおける認知症診断助成制度の実施医療機関となっているため、認知機能精密検査の依頼に対応することもあります。
また、急性期の総合病院は患者さんの状態や症状などの変化が速いため、多岐にわたるニーズへ柔軟に対応できるよう取り組むことも求められているのではないかと思っています。当院の心理士は一日3名と少人数体制のため、お互いにフォローし合いながら、地域の皆さまや患者さんのニーズに全員が同じようにお応えできるように研鑽を重ねています。
多職種と協働し、できるだけ多くの患者さんの心のつらさを和らげたい
どのような患者さんと関わることが多いのでしょうか。
谷口:主に何かしら心に不調をきたしていたり、病気などにより生活がしづらくなっていたりする患者さんと関わることが多いです。認知機能で不安なことがあったり、学習面で困難なことがあったりする患者さんとも関わることがあります。私たち心理士が関わる方々の中には、様々な心の問題を抱えている方や、病気と闘っている方、個人の持つ特性によって日常生活の様々な場面に困難を抱えている方やそのご家族もいらっしゃいます。
年齢も疾患も幅広い患者さんと関わる機会が多いと思いますが、患者さんと接するときに心がけていることを教えてください。
谷口:患者さんと接する際は、検査結果や診察過程の情報も参考にしますが、患者さんのご様子や服装、仕草や表情などにも意識を向けて目の前の患者さんと向き合い、患者さんの話をしっかり聞くようにしています。私たち心理士と関わることで、患者さんの気持ちが少しでも和らいだり、問題解決に繋がるきっかけとなり、次もまた相談できる場所として思い出していただけたら嬉しいですね。
心理士は医療チームの一員としても業務を行っていると思いますが、医療専門職との連携について教えてください。
白川:精神神経科において心理検査や心理面接の依頼を受けた際には、その患者さんの精神的・身体的な状況に合わせて、どのようにアプローチするのがよいかを、主治医と相談しながら進めていきます。チーム医療においては、カンファレンスやミーティングに参加したり、病棟に足を運んだりして、できるだけタイムリーに情報共有できるよう努めています。また、心理検査や心理面接を通して、患者さんがさまざまなかたちで表現されたものを大切にしながら、チームとしてのより良いかかわりにつながっていくよう工夫しています。
悩みを一人で抱え込まず、信頼できる方に話してもらいたい
心理士として働く中でどのようなことがやりがいですか。
谷口:私がやりがいを感じるのは、患者さんとの関わりの中で、当初抱えていた悩みが緩和されていく様子を、患者さん自身と一緒に共有できる瞬間です。つらいことや上手くいかないことがありながらも、少しずつ自分自身を認めたり受け入れられたりするようになっていく過程を見守り、表情や話し方、お話の内容の変化を一緒に感じることができるのは嬉しいですね。初めは、ご自身で抱えていた問題について否定的に話していた方が、徐々に前向きな言葉を使うようになったり、自分の状況を客観的に捉えられるようになったりすることもあります。その気づきを患者さん自身が語ってくれることもあるので、患者さんと一緒に変化の過程を共有できると、良かったと感じます。
読者へメッセージをお願いします。
谷口:より多くの人にとって、心理士が身近で豊かな場所になることを目指しています。
日々の中で、しんどいなと思ったり、もう頑張れないかもしれないと感じたりする瞬間は誰にでもあると思います。そんな時、そういった気持ちを一緒に感じ、寄り添える、誰かの居場所になれたら良いなと思っています。皆さん一人ではないことをどうか忘れないでください。
川添:しんどいとき、おつらいとき、人に迷惑をかけてはいけない、こんなことで相談するなんて恥ずかしいなど、一人で頑張り過ぎていませんか。もしかしたら、このしんどさは誰にも分かってもらえないと思われていることもあるかもしれません。 心の不調は目に見えにくく、一人で抱えこむうちに、どんどんつらさが募っていくこともあります。どうぞ、信頼出来る誰かにお話してみて下さい。どんな不調も、早めに対応が良いですよ。もし私たち心理士が、その選択肢になることができましたら嬉しいです。うまく話さなくても、感じているままにお話いただいて大丈夫です。