がんとともに歩む患者さんに、笑顔で前向きに生きる力を

がん総合診療部では、がん患者さん・ご家族を支える「患者会チーム」を設置しています。コンサートなど季節のイベントやライブラリー、学びと交流の場である患者サロンの運営を通して、「参加してよかった」「生きるっていい」と前向きに生きる力を引き出せるようなサポートを続けてきました。そこに関わる職員自身、「取り組んでよかった」「また頑張ろう」と勇気をもらうこともしばしば。
今回は医師・看護師の4名に、日ごろどんな思いで活動しているのか語っていただきました。
多職種が連携してがん患者さんをサポートする
患者会チームではどんな活動をしているのですか。
多田:患者会チームは、2013年にがん総合診療部が発足したのと同時に立ち上がりました。クリスマスコンサートを初めて開催したのが2014年12月のこと。そこから少しずつ活動を広げてきました。2015年、3階に患者相談支援センターと化学療法室が開設されると、そばに図書コーナーとしてライブラリーを設置。患者さん同士で語り合う患者サロンも2016年にスタートしました。このインタビューに参加しているのは医師と看護師の4名ですが、このほかにも臨床心理士やメディカルソーシャルワーカー、作業療法士など、病院のさまざまな職種が関わっています。
勇気と笑顔を届けるクリスマスコンサート
クリスマスコンサートは西神戸医療センターの名物イベントだそうですね。
多田:コンサートを始めた当初は、職員有志によるハンドベルなどの演奏、クリスマスソングの合唱が中心でした。その後は患者サロンに参加される方も合唱に加わる年もあり、患者さんと職員が共同で開催するような雰囲気でやっています。患者さんの中には、毎年のように素晴らしいシャンソンを歌唱してくださる方もおられます。
可知:コンサートを聞いた人々からは、「患者さんのシャンソンを聞いて希望が持てました。前向きに生きていこうと思います」「日々忙しい中、素敵な演奏をありがとうございました」「感動と勇気をもらいました。皆さんの優しさが心に響いています」、このような感想を寄せられました。来年も楽しみにしてくださる方が多く、私たちにとっても大切な時間となっています。

岩城:当院の副院長が素晴らしいエンターテイナーで、自ら中心となって色々な企画に参加してくれます。前回はAKB48の歌とダンスでめちゃくちゃ盛り上がりました。私自身は第1回のコンサートから企画を含め参加してきましたが、正直、準備はそれなりに大変です。でも、患者さんが「良かったわ!」と喜んでお帰りになる姿を見ると、「苦労したけど、こんなに喜んでもらえるなら来年もまたやろう」と思うのです。この気持ちがあるから10年やってこれたのでしょうね。
一人ひとりの「患者さんらしさ」を大切にしたい
患者サロン「あじさい」はどんな場なのですか。
岩城:患者サロンでは、がんロコモ、がんと栄養といったテーマで管理栄養士や理学療法士が講義を行い、皆さんにも思いを語っていただいています。患者さんからは、「普段の食事での栄養の取り方がよく分かった」「家でどう運動したらいいか非常に勉強になった」などのご意見がありました。「前に会った人とまた話せて良かった」という声もあるくらい、リピーターになる方が多いですね。2024年度は10回開催しましたが、いつも5~6人、多くても10人ほどのグループで行っています。こぢんまりした集まりなので皆さん話しやすいようです。
中村:あじさいの花の色が、土によって変わることをご存じでしょうか。状況が変わっても適応して美しい花を咲かせるあじさいは、病気とともに自分らしく生きようとする患者さんに重なります。患者さん1人ひとりの「自分らしさ」を大切にしたい。そんな思いを込めて、患者サロンや夏祭りの名前を「あじさい」としています。それに、あじさいは神戸市民の花でもありますよね。
多田:患者サロンでは、ある程度は私たち医療者がファシリテーターのような立場で関わっています。今後はもっと、がんの経験をされたピアサポーターにも関わってもらってより充実した内容にしていけたらと思っています。今以上に患者さん主体で、切実なことも相談し合える雰囲気が深まればうれしいですね。
患者さんの「生きるっていい」を引き出す企画を実施
6月のあじさい祭はどんなイベントなのか教えてください。
岩城:あじさい祭はまだ歴史が浅く、2024年6月からスタートした企画です。「冬はクリスマスコンサートがあるけど、夏は何もないのでは?」という話が出たのがきっかけでした。がんの患者さんが絵画や服などの作品を持ち寄って展示するような、患者さん主体の催しです。
可知:2回目の2025年は67名が参加されました。患者さんによる作品展示に加えて、木工のワークショップや栄養補助飲料の試飲、ウィッグの試着、パーソナルカラー診断などのコーナーも設け、前年よりバージョンアップしました。参加者からは、「同じ病気を持つ方々とお会いして、励まされ、勇気づけられました」「生きるっていい」「頑張らずに、自分なりの持ち味で治療にあたろうと思います」「楽しみを見つけることの大事さに気づかせてもらいました」「皆さん前向きに病気と闘っている思いに感動しました。お互い頑張りましょう」といった感想をいただいています。
患者会の醍醐味は患者さん同士のふれあいです。制限の多いコロナ禍は大変だったのではありませんか。
中村:感染予防の観点から、患者サロンでの交流は中止にせざるを得ませんでした。でも、クリスマスコンサートは患者さんだけでなく、職員も楽しみにしているイベントです。コロナ禍は歌やダンスを撮影して動画を編集し、患者さんがDVDで視聴できるようにしました。作業は大変でしたが、職員に感想を伝えに来てくださる患者さんもいて、やって良かったと思っています。
患者さんの人生に触れることで、医療者の視野も広がる
患者会チームの活動は、普段の診療とはまた違ったやりがいもあることと思います。
岩城:私は、立ち上げに関わった看護師に誘われて患者会チームに参加するようになりました。その人が退職するとき伝えたのが、「誘ってくれて本当にありがとうございました」という言葉です。私は普段の診療でがんの患者さんと接する機会は多くありませんが、皆さんが懸命に治療を受けながら活動する様子を見ると、私の中で強く響きます。患者会チームに関わることで歯科医師としての視野が広がり、大きな糧になっていると感じますね。
多田:クリスマスコンサートでは私も合唱に加わっています。そのとき、参加する患者さんから「毎年コンサートに来るのが目標。今年も来れて良かった」と企画を励みにしている声をお聞きします。同時に、治療を経て元気に過ごす患者さんの姿を見ることで私たちも勇気をもらい、励みになるんです。日ごろの診療では見えない患者さんの人生に関わるような、有意義な活動だと思っています。
看護師は患者さんとの接点が多い職種です。患者会チームの活動をどう捉えていますか。
中村:患者サロンは、患者さん自身が他の方の役に立ち、助けになる場です。皆さんその体験を通して、「自分もまた頑張っていこうと思う」と気持ちを新たにされています。私は看護師として患者さんがつらい状況を乗り越えていく姿をみることもありますが、それとは違って他の方を助けたり、支えたりすることで、前向きになっていく患者さんに接すると、日常業務では得られないやりがいを感じますね。
可知:私はがんに関する相談を承ることが多く、イベント参加の問い合わせなど、最初のとっかかりの窓口のような立場でもあります。患者さんからは、「あじさい祭に出品したい」「私もコンサートに参加できないか」「ワークショップをやってみたい」といった声をかけられます。そうやって参加に向けるパワーを目の当たりにすると、「皆さん、なんて強い人たちなんだろう」と胸がキュンとする。そんな瞬間があります。

一番の強みは“自然体”のチームワーク
とても和やかな雰囲気ですが、チームワーク向上の秘訣は何ですか。
岩城:患者会チームに限らず、当院全体が非常にチームワークのいい職場です。ですからチームワーク向上のために特に意識していることはありません。そもそも、医師だけ、看護師だけといった垣根があるような病院ではないんです。イベントの準備もメンバーがわっと集結しますし、可知さんも今年から加わったと思えないくらい活躍してくれています。会の運営を通してさらに結束が強くなっていく、そこが患者会チームの強みではないでしょうか。
中村:イベント1つとっても、常に患者さんのために何ができるかをメンバー1人ひとりが考えていますよね。コンサートでは合唱などを練習するだけでなく、手作りのプレゼント案を考えてくれる人もいます。気遣いやおもてなしの気持ちが自然に出てくることも、このチームならではと実感します。
職員の温かさが心強い、だから私も西神戸を選ぶ
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
岩城:年齢を重ねる中で、ふと「いつか自分もがんになるかもしれない」と考えることがあります。もし本当にそうなったら、そのときは絶対に西神戸医療センターで治療を受けたいと思うんです。こんなに温かい職員がいるのは、めちゃくちゃ心強いですから。
多田:自分自身もそうですが、家族ががんになる可能性もありますよね。私たちは医療者でありながら、患者であり、家族でもあるわけで、立場によってものの見方もまったく変わってきます。そうやってたくさんの視点を持ちながら、どんな立場にある人の気持ちも分かる医療者でありたいと思っています。


